コラム「絵物語」

「絵物語 第9回」
絵画アドバイザー 強矢あや子が語る絵ものがたり。
〜「赤い夜に発つ鳥」〜

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2010年4月行われた軽井沢万平ホテルでの新作展で発表された作品の中で、唯一他の作品とまったく異なった雰囲気を放つ絵がありました。

 今回は、その作品をご紹介いたします。

 

新月紫紺大作品「赤い夜に発つ鳥」

 作品タイトル、「「赤い夜に発つ鳥」

 

 遠くの空を、一羽の鳥が飛んでいきます。
不思議な色の赤い空には、鳥を中心にまるで孔雀の羽のような模様が細い金の糸のように繊細に描かれています。

 
  この作品は、2004年ごろからすでに下地を描き始められていました。
先生の絵には珍しく、あまりスカッとしないというか、はっきりとしない赤い空は、その当時から描かれていました。

 この作品がなぜ今になって完成したのか…?
 
  私はここに、この絵の最大の魅力と重要性があると思っています。

 
先生はこの作品を描いていた当時の心境について、こうおっしゃっています。

「この絵を描いていた頃は、東京を離れて八ヶ岳で庭造りに毎日没頭し始めた頃で…、
 
自分でもこれで良いんだろうかと思ったりして…、

きっと怖かったんだろうね…。 

やっぱり精神的なものって、絵の色に出るね。」

 振り返ってみると、ちょうどその頃の作品には鳥をモチーフにした作品が多く、
さらに言うと、描かれている鳥は明るい月の光や空を背に、その姿は黒く描かれているものが少なくありません。

 
  先ほどの先生自身が語られた言葉のとおり、
当時の紫紺大先生はご自分の心の内を、このような大空に羽を広げる鳥達の姿とそして不安そうな空の色によって、投影されていたのかもしれません。

 

 それから5年が過ぎ…、

 

 紫紺大先生の新たな時代を象徴するかのように、
前回の絵ものがたりでも取り上げた「桜水晶」などの作品が生まれました。

 それらの作品は、これまでのものとは別格の明るさと温かさを放ち、
まるであらゆる光の魂そのもののようです。

 

 そしてこれらの作品と共にたまたま出てきたのが、この「赤い夜に発つ鳥」の下地でした。

 先生は、孔雀の羽のような空と鳥の頭に、輝く金色の細い筋を入れ、空の一部をちょっとだけ明るくしました。

 

 …下地の段階とは似て非なる魅力的な作品は、

約5年の月日を経て、ようやくここに完成しました。

 

 先生がおっしゃった言葉です。

「遠い空の彼方を飛んでいるなあ…、この鳥は…。」

 
  遠くに見える赤い夜空に発つ鳥の姿に、

先生はご自分の通ってきた長い道のりを、いつの間にか重ねて描かれていたのかもしれません。

 あのとき先生が吸っていた長くたなびくタバコの煙が、今も私の心に残っています。

 

 赤い夜に翔ぶ鳥は、深い決意と人生を背負いつつ、希望に向かって今旅立ちました!


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